地獄の底でふたりきり

14.鎮守の沼にも蛇は棲むY

 玄関先に座りこんでいたイヴを、アダムは無言で胸の中に抱き上げた。
 屈強な胸板に無心で頭を預ければ、アダムの心臓の拍動が耳を刺す。
 何か言い訳の言葉の一つでも言うべきなのかと、イヴはちらりと頭上に見える自身を抱き上げている男の顔を覗き見た。
 アダムの足取りに、迷いはない。
 呆然とされるがままになりなっていれば、つれてこられたのはアダムの自室だった。

 イヴをベッドへと寝かしつけ、アダムはその上に静かに覆いかぶさる。
 かつては喜んで訪れていた、親愛なる兄の部屋。
 このベッドの上で戯れにアダムに抱きついたり、本を読んでもらったりしていたことは今でも記憶の奥底に深く刻み付けられている。
 そういえば以前にも、こうやってアダムの肩越しにこの部屋の天井を眺めたことがあった。
 あの時はただの遊びの一環だったが、今は無邪気に慕っていた頃とは状況が違う。
 兄のように思っていた相手だろうが、相手は大人の男だ。しかも子供の頃からの婚約者ときている。
 以前はひた隠しにされていたが、今ではイヴ自身はっきりと立場を理解していた。
 そんな状況で未来を楽観視できるほど、イヴは子供にはなりきれなかった。

「お前は、立場を分かっているのか」

 口から出た地を這うような声に、声を発している当人であるアダムは自虐的な笑みを強めた。
 アダムは分かっているのだろう。イヴが何をしていたのか。
 正確に言えば、誰の元を訪れていたのかを。
 イヴは小さく喉を鳴らした。

「お前は、俺の妻だ。最初から、それ以外の道なんてありはしない」

 発する一言一言に、並々ならぬ力が込められている。
 イヴが身をよじる度に、シーツの上に一つ、また一つと皺が刻まれていった。

「……分かっているわ」

 言いながら、イヴは欲の込められた眼差しから目を反らす。
 アダムは、イヴの言葉を鼻で笑った。

「なら、お前は規格外の馬鹿なんだろう」

 重々承知している。
 レボルトの元を訪れることに関してアダムが決してよくは思っていなかったことも、その上で黙認されていることもすべて分かった上で、身勝手に子供っぽい恋愛ごっこを続けていた。
 イヴの肩を押さえつけその身をベッドに沈めようと縫い付ける腕からは、確固たる男の意思が感じられる。

「十年だ。……十年間、お前の為を思って優しい兄を演じてきた。無理強いをするのは俺も本意じゃない。お前が大人になるまで……お前の気が済むまでは、人畜無害な兄でいてやろう」

 アダムが身を乗り出せば、イヴの体はさらに奥深くへと沈んでいく。
 ぎしりとベッドがきしむのと同時に、見開かれた海色が赤い目と重なった。

「……そう、思っていたんだがな」

 肩を押さえていたアダムの腕のうちの片方が、そっとイヴの腕をなぞっていった。
 二の腕から順に滑るようにして這う節くれだった指先が、イヴの手首を軽い力で握りしめている。
 親指に力を込められれば、鈍い痛みがイヴを襲う。
 眉をひそめれば、アダムは微かに口角を吊り上げた。
 だが、男の眼光は鋭いままだ。きつく見下ろされれば、返す言葉は何もなかった。

(……私は、会いに行くべきじゃなかった)

 何も知らなければよかった。出会いたくなんてなかった。
 幼少期に抱いた、無謀なまでの好奇心が心底憎かった。
 そもそもレボルトに出会わなければ、こんな風にアダムに組み敷かれて、嫌だなんて思わずに済んだのだ。
 それを当然のこととして受け入れ、夫として受け入れることも出来ただろう。

 今だって、頭では理解しているつもりだ。だが、心が伴っていない。
 瞼を閉ざせば、こんな状況だというのにレボルトに唇を奪われた生々しい感触が、まざまざと蘇ってくる。
 イヴがレボルトを思うように、レボルトからも必要とされているのだと勘違いしそうになってしまう。
 そんな日は、来るはずもないのに。
 顔を逸らし、イヴは自虐的に口角を釣り上げる。
 喉元を震わせ自嘲気味な笑い声を漏らせば、アダムの眉間に皺が刻まれた。

「……自分でも、馬鹿だと思う」

 こんな状況でも、まだレボルトに未練を感じてしまっている。
 それどころか、どこか喜んでいる自分がいるのも事実だった。
 嫌がらせだってなんだって、レボルトの方からキスをされたという事実は変わらない。
 それがどれほどの歓喜をイヴにもたらしたのか、あの蛇は分かっているのだろうか。
 潔くふってくれればそれでよかったのに。
 そのくせに、レボルトはどこまでも残酷だ。
 もしかしたら少しは固執されているのではないかと、舞い上がってしまいそうになる。

「……思っていても、どうしようもないの」

 悪いけど、あなたを好きなることはない。

 言外に訴えれば、アダムの目に暗い影が落ちる。
 このあとの自分の運命が分かっていようとも、相手を煽るだけの言動だとしても、それでも最後の最後まで反抗したくなってしまう。
 どうせ今この場で何を言おうが、どんな抵抗をしようが、イヴの未来は変わらない。
 ならばこそ、黙ってされるがままになってやるというのも癪だった。

「そうか」

 瞳をこれ以上ないほどに細め、アダムは無表情に言い放つ。
 ゆっくりと近付いてくる顔(かんばせ)に、地を這うような低い声に、イヴは小さく息を呑んだ。
 自分で挑発しておきながら、いざ迫られると急に怖気付いてしまう。
 どうせこうなることは分かっていたはずだ。覚悟していなかったといえば嘘になる。
 せめてもの抵抗とばかりに、イヴは強く唇を引き結んだ。
 そんなイヴのささいな抵抗を鼻で笑った男は、イヴの喉元に舌を這わせた。

「ひ、ゃ……っ!?」

 想定外の感触に、ぞわりと背に震えが走る。
 頑なに閉ざされていた口は情けないまでに呆気なく、甲高い嬌声を漏らした。
 力強く瞼を閉ざし、首元に埋められたアダムの顔から逃れるように横を向く。
 口を片手で必死に抑え、これ以上痴態を漏らさぬようにと荒い息を漏らせば、アダムはそれを許すまいとばかりに上機嫌に低い笑い声を漏らし、容赦なく責め苦を与えていった。
 首筋を舌でなぞり甘噛みを繰り返しながら、男は器用にも片手でイヴの服のボタンを外していく。
 重ねられたもう片方の腕が、強くイヴの指を絡め取っていた。

「お前の気持ちなんて、もうどうだっていいんだ」

 言外に纏わせたイヴの意思に応えるようにして口を開く男の目には、ドロドロとした熱が渦巻いていた。纏わりつくような粘着質で薄汚い欲望を瞳の中に宿し、静かながらも狂気を感じさせる毒をイヴに対して浴びせ続ける。

「俺は、ここでお前を抱く」

 吐息交じりに、アダムはイヴの耳に囁きかけた。

 ——だと思った。

 これ以上ないほどの恥辱を味わわされながらも、イヴの中にはどこか達観的な自分がいた。そも、押し倒された時点で半ば覚悟は出来ている。
 だが冷静にといくら心で唱えたところで、首を、鎖骨を、胸元を暴きたててくる指先に、心臓は煩いほどに鼓動を早めていた。

「……んっ」

 必死に落ち着こうと息を吸い込めば、不本意にも声が漏れ出そうになってしまう。
 状況的には一応強姦ということになるのだろうかと、イヴは胡乱な頭で考えながら、口を覆う片腕に一層力を込めた。
 立場上、アダムは何も間違ってはいない。相手は婚約者だ。手を出そうが何をしようがこれは自然な行為なのだ。

「生憎、大人しく抱かれてあげる気は、ないんだけど……っ!」

 アダムの攻め手が緩んだ一瞬の隙をつき、足を必死にバタつかせ、服を脱がせようとしてくるアダムに抵抗の意思を表す。
 イヴに出来ることなど、それくらいのちっぽけなものだ。
 父が止めに来ない、ということは黙認されているということに相違ない。
 既に胸元ははだけ、人に見せられたものではないが、無抵抗というのもそれはそれで気持ちが悪かった。

「……そうだな。その方がお前らしい」

 イヴの足を片手で軽々と押さえつけながら、顔を上げたアダムは喉の奥を震わせどこか楽しげに笑う。

「……なんで、そこで笑うのよ」

 イヴの額に口付けを落としながら、アダムは腕を止める素振りを見せない。
 片手で足を押さえつけたまま、開け放たれた黒のワンピースの隙間から腕を差し込み、アダムは無遠慮に胸を揉みしだく。

「この状況が、楽しくないとでも?」

「私は、全然っ、楽しくないわよ……っ!」

 自由になった腕で足を押さえつけるアダムの腕を押さえ、イヴは必死に荒い息を吐く。

 楽しくてたまるか。

 見えてはいなくとも服の中をまさぐり胸に触れてくる指先の感触に、恥ずかしすぎて死にたくなってくる。
 胸のラインをなぞるように撫でさすったかと思えば、下から持ち上げるようにしてやんわりと揉み上げられる。

(平常心、平常心、平常心……っ!)

 頬を赤らめ、視線を逸らし、涙目になりながら悶絶するイヴに、アダムは実に愉快だと言った様子で口角を吊り上げた。

「い……やだっ……てば……!」

 アダムを押しとどめようと押さえつける腕からは、次第に力が抜けていった。
 反抗する余力がないといった方が正しいのだろう。
 勢いに任せアダムが胸に貪りつけば、びくんとイヴが背を仰け反らせた。

「ん……ぁ……っ」

 行く当てをなくした少女の腕は、アダムをなんとか引きはがそうと男の赤毛を掻き毟り始めた。
 だが、どんな些細な行いも、愛しい女の行いならばアダムの行為を加速させるだけにしかならない。
 目に涙を浮かべ、歯を食いしばり、自身の体を踏み荒らそうとするアダムを、イヴは必死に拒もうとしている。
 笑みを浮かべ、少女の胸をいじり倒しながら、もう片方の腕でアダムはイヴのワンピースをたくし上げていく。
 目を閉じ翻弄されているイヴは気付かない。
 自身の太ももが、かつて敬愛していた兄の目に晒されていることに。

「ぁ……う……!? ……駄、目っ!」

 声にならない嬌声が、必死の叫びに代わる。
 ようやくイヴが現状を把握したのは、アダムが胸への攻めの手を緩め、太ももに手を這わせた頃だった。
 つーと、人差し指で下から上に武骨な指を這わせた瞬間、イヴは素っ頓狂な悲鳴をあげる。

「ひ……っ」

「ああ……こういうのがいいのか」

 感嘆の声を漏らし、アダムは再度指を這わせる。

「ちょっと待……っ!」

 抵抗を無視し、数度指を動かし続けた。
 その都度、やめろ、だの、嫌だの、言いながらぶるりとイヴが体を揺らす度、愛らしい反応にアダムは笑みを強める。
 呆気に取られているイヴの上に覆いかぶさり、蛇の記憶を塗り替えかのように柔らかな唇に自身の物を重ね合わせる。それと同時に、今まで太ももを軽くまさぐるだけだった左腕をイヴのドロワーズに掛ける。
 瞬間、目を大きく見開き、イヴの動きが止まった。

「や……」

 必死に下着を下ろそうとするアダムの指を上から、か細い腕が制止しようと小さな抵抗を試みる。

「大人しくしていろ」

「ん……む、ぅ」

 口づけの間、息をするついでとばかりに口を開き、アダムはイヴの額に軽く口づけを落とす。
 一瞬のまどろみにイヴの意識が下から逸れた絶妙なタイミングを見計らい、アダムはぐっとドロワーズを引き下ろした。
 抗議の声を上げる暇を与えず、再度唇を重ね合わせれば、声にならない叫びはアダムの口の中に吸い込まれていく。
 舌と舌が絡み合い、淫猥な音が静かな寝室にこだましていた。

 そのままイヴの花園を暴き立てようと軽く触れた瞬間、アダムの口の中に血の味が滲んだ。
 舌打ちをしながら体を起こす。
 すっかり手中にあると思い込んでいた眼下の女は、息を切らしながらも勝ち誇った顔をしていた。

「……ぁ、言ったじゃ、ない」

 息を切らしながらも、イヴの目は必死にアダムを睨みつけていた。
 体は熱に浮かされようとも、少女の根幹は何も変わらない。
 情事の最中とは思えぬほど冷静な眼差しで、イヴはまっすぐに欲に犯された兄の目を見上げていた。

「黙って抱かれてあげるほど、優しくはないって」

 だが皮肉なことに、まっすぐに己を射貫く強いまなざしは、アダムの情欲を煽るもの以外の何物でもなかった。

「そうだったな」

 アダムは笑顔だった。それこそ満面の笑みだ。
 小動物を前にしたかのようなゆるみきった顔で、笑っている。
 それが、アダムを見上げる形で横たわっているイヴには、心底、恐ろしく感じた。
 伊達に16年も兄妹をやっていない。流石にイヴにも分かった。
 ああ、自分は今確かに、この男を煽ってしまったのだ。

「蛇には大人しくされるがままになっていたくせに、俺には随分と手厳しいんだな」

「なん、で」

 どうして、アダムがそこまで知っているのか。
 だが、イヴの問いにアダムは答えてはくれなかった。
 口についている、唾液交じりの血を手の甲で拭うと、アダムはイヴの両足の間に無言で自身の片足を挟み込んだ。
 待って、という鳴き叫ぶイヴの制止にまったく耳を傾けずに、両腕でぐっとイヴの足を広げ、その中心を視姦する。

「ぁ……う……」

 先ほどまでの強気が嘘のように血色を無くし咽び泣くイヴに、アダムの加虐心が大きく刺激される。
 ああ、もっと見たい。みっともなく子供のように泣きわめき、縋り、悶え、喘ぎ、苦しむ愛しい女の姿が。

「う、ひ、ぁ、あぁぁあぁああぁっ!?」

 まだ固く閉ざされた蕾を、無理矢理男の武骨な中指が押し開いていく。
 未だかつて何も押し入ったことのないそこを、自分が踏み荒らしている。
 無垢なものを穢すどうしようもない背徳感が、甘美な痺れとなってアダムの背を駆け上っていった。
 狭い膣口には指を一本入れるのがやっとだった。
 だが、今更ここでやめてやれるほどアダムは優しくはなかった。
 歯を食いしばり痛みに耐えているイヴの腕がシーツを掴んでは離し、何度もそれを繰り返し、寝具をもみくちゃにしていく。

「イヴ」

 ぐっと、異物を排除しようとする膣の動きに逆らい、奥へ奥へと指を押し込みながら、アダムは堪えるように息を吐き出す。
 欲しい。今すぐにでも、この女の中をもみくちゃにしてやりたい。
 そんな欲を愛する女の名を呼ぶことで必死に落ち着かせ、イヴが反応するところを探し当てようとする。

「ぁ……」

 その時、涙交じりにイヴが微かな喘ぎを漏らした。
 不気味なほどに吊り上がっていく口角を自覚しながら、アダムはそこを重点的に刺激し続ける。

「ん……ぁぁ……い、や」

 何度も頭を振り、額に汗を浮かべながら、目を固く閉ざし、何度も嫌だ嫌だと繰り返す。

「嫌じゃない」

「い、やだ、って、ば……ぁ」

 はぁはぁと、荒い息を何度も零し、襲い来る未知の物から逃れようと抗う。
 その瞼の裏には何が浮かんでいるのだろうか。
 きっとそこにあるのは赤毛の男などではなく、あのいけ好かない金の瞳をした男なのだろうな、と思い至った瞬間、加減するのも忘れ、アダムは強くイヴの中を刺激していた。

「ふ……ひっ……ん!」

 指を締め上げる力が強くなり、イヴの背が弓なりにしなる。
 力なく、息を荒くして背からベッドに倒れこんだ少女は、酷く魅惑的だった。
少女と大人の間にいる娘。それが今自分の手の中で一人の女になろうとしている。

 片手で両目を覆い隠しながら、イヴは泣いていた。
 叫ぶでもなく、ののしるでもなく、ただひっくひっくと声を押し殺して泣く。
 哀れ、とも思えるそれを見てなお、アダムの中を満たしていくのはとてつもない幸福感と征服欲だけ。
 本当に、どこまでも救いがない。

「ぅ……ぁ……」

 指を引き抜けば、微かな声がイヴから漏れ出る。
 固く閉ざされていた蜜口は、ほんのりと色付き蜜を溢れさせている。
 必死に突きたて、暴きたくなる衝動を必死に抑え、まだだ、まだだと、アダムは突き入れる指の数を増やしていく。
 数度、軽い絶頂を迎えてか、びくんと何度かイヴの体が震えを繰り返す。
 やがて、きついが、それでも指が三本余裕を持って出し入れ出来るようになった。
 聖女そのものだった少女の膣は、抗おうとする本人の意思を顧みることなく、しとどに濡れ、小さく開閉を繰り返しては艶やかに男を誘い込んでいた。
 指にべっとりと付着した女のものを舐め取ると、アダムはイヴの肌に、静かに口付けを落としていく。
 初めに首筋に赤い華を咲かせ、次いで鎖骨、胸、脇腹、と無遠慮に自分のものだという所有印を刻み付けていく。
 中途半端に着乱れた黒いワンピースが背徳感を募らせていき、益々アダムの熱が量を増していった。

「イヴ」

 決して己を見ようとしない女の名を呼ぶ。

「イヴ」

 再度呼んでも、イヴの瞳はその腕の下で閉ざされたままだ。

「イヴ」

 耳を食む形で囁かれた名前に、イヴの体が微かに揺れる。

「好きだ」

 腕の下に隠された目が、見開かれ、揺れる。
 それを知らない男は、一人自分勝手な愛の言葉を囁き続ける。

「……好きなんだ」

 刹那、イヴの中に芽生えたのは、怒りでも絶望でもなければ、漠然とした「哀れみ」だった。
 イヴはそろりと目を覆い隠していた腕を額へと押し上げ、そっと執拗に口付けを繰り返す男を覗き見る。

 この男も、根本的には自分と同じだ。

 焦がれても焦がれても届かない。
 それでも、相手を求めずにはいられない。
 叶わぬ思いが胸の内でうずまき、吐き出すあてのない熱だけが蓄積されていく。
 不毛なものだ。
 それでも、相手に、憎しみでもなんだって、己の跡を残せたのなら、それはどんなに。
 ああ、本当にどうしようもない。
 やはり血は争えないというわけか。
 この男も自分も、どうしようもないほどに溺れている。

 アダムと視線がかち合った瞬間、イヴの中に膨大な熱が押し寄せてくる。
 眉根に皺を刻みながら、苦し気に息を吐き出しながら、固く熱いものがイヴの体を暴き立てていく。

「……くっ」

 イヴの胸に自身の胸を密着させ、少女の背を力強く抱きながら、首筋に歯を突き立てる。
 ある程度ほぐしたとはいえ、所詮は生娘。
 めりめりという音を立て、押し広げられていく秘所に、イヴの目に涙が滲む。

「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」

 短く喘ぎ声を数度漏らし、イヴは朦朧とする意識で、無心に眼前のアダムの背に爪を立てていた。
 ぶちっという音と共に突き破られた少女の純潔を証明し、秘所からは微かに血が滲んでいる。がくがくと痛みに震え、イヴのアダムの背を掻き抱く力が強くなる。

「……痛いか?」

 ぶんぶんと無心で首を上下に振ると、アダムはイヴの背を抱く腕に力を込めた。
 ベッドの上に横たわる少女の上に覆いかぶさった野獣は、とんとんとしばしイヴの背を叩くと、出来るだけ、痛くはしないと耳の中に注ぎ込み、ゆっくりと律動を始める。
 イヴは元より小柄だ。
 二メートル近い巨体と、150程度しかない女では、そもそも体格的に無理が生じてくる。
 それでも更なる高みを求めて、アダムは腰を突き入れる。
 肉棒がイヴの最奥に当たる度、律動の衝撃にイヴが小さく声を漏らす。

「ぁ、ぁ……っあ」

 ぐじゅ、ぐじゅ、という淫猥な音を立て、何度も挿入を繰り返す。
 ただでさえ狭い中を締め上げられる度、引きちぎられそうな痛みと、想像を絶する快感が男の中を駆け巡る。
 ゆっくりだった律動は次第に速度を増し、ぐじゅぐじゅとどちらのものとも分からない粘液が混じり合い、ぶつかる音も次第に激しさを増していった。

「は……」

 持っていかれそうになるのを歯を食いしばり必死に耐えながら、アダムは少しでも長くイヴの中を味わおうと、深く溜息を吐く。

「イヴ……っ、ぐ」

「ふ……ぁ、ぁぁ、ぁ」

 口からみっともなくよだれを零し、蹂躙されている少女は己の名を呼ぶ声に僅かに声を上ずらせる。
 淫らな水音が部屋にこだまし、視覚でも、聴覚でも、アダムの欲を刺激する。
 必死にアダムの首に腕を回し、喘ぎ声を漏らしながらも応えようとするイヴに、これ以上膨らむことのないと思っていた欲望が更に肥大する。

「ちょっ、ぁ、と、う、ぁ、ひゃあ!? な、ぁ……んでっ、ぁ、あ、お、お、ぁっ、き、くして…ぁ!」

「……お前が悪い」

 半ばやけくそだ。こっちにだって余裕がない。
 それをなんて煽り方をしてくれるんだお前は。

「は、ぁ、あ!? ちょっと、ま、ん、むっり、ほんとっ、ぁ、にっ……! ひ、ぁぁぁぁあああぁあ!?」

 必死に腰を引き、逃れようとするイヴの中に杭を打ち込み、腰を掴み、果てを目指して律動を速めていく。

「イヴ」

 苦しみ、快楽に喘ぐイヴの耳元で囁く。
 額に浮かんだ汗がイヴの胸元に落ちる。

「……愛している」

 瞬間、きゅんと中を締め上げる力が強くなる。
 びくんびくんと、絶頂を迎えたのか瞳を強く閉ざしたイヴの中が、何度も収縮を繰り返す。

「は……」

 それが男の限界だった。
 更に奥に肉棒を差し込み、少女を抱きつぶさんばかりの勢いで強く掻き抱き、イヴの最奥で白い欲望を解き放つ。
 中に放たれた事にも気付かず、最奥に放たれた熱にびくんとまたしても体を仰け反らせ、何度もまだ中に鎮座しているアダムのものを締め上げる。

 衰えることなく再び高ぶってくる熱に、暗い喜びがアダムの中を満たしていく。
 虚空をうつろな眼差しで見つめるイヴの唇に、静かに口付けを落とす。
 聞こえていなくても別に構わないと、アダムはイヴの耳へとあからさまな欲情のこもった言葉を囁く。

「早く孕めばいい」

 枷は多いほうがいい、と独り言を零し、言葉を続ける。

「もうこの屋敷からは出さない」

 ちう、と耳の裏に口付けを落としながら、男は甘やかに毒を吐く。

 ——だから

「安心して、抱かれていろ」

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