夢幻の中の君
ツイッター(@nueayad76)のフォロワーさん200人突破記念に、ストーカー時代の鶴見(「綱の上で踊る」で札束ブン投げてたヤンデレおじさんです)を書きました。
結構気持ち悪いです。(R18注意)
当初はフォロワーさん限定公開でプライベッターに投げてたんですが、せっかく書いたし、というかタイムラインに置いとくと流れちゃうし、えみり更新したついでにこっちにも投げておきます。
本編にくっつけるにしては、なんとも入れ込み場所に困る内容ですし。
250人突破したら、また何か書きます。(いつになることやら)
※活動報告とプライベッターにあったものを、そのまま再掲載したものです。
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『それでは、これにて契約成立ということで』
鶴見が流暢な中国語でそう告げてやれば、テーブルを挟んで向かい側に座る男は満足そうに頷きを返した。
現在鶴見は大陸からやってきた富裕層の男相手に、絶賛ホテルの一室で商談の真っ只中だった。
最近は、日本の高級マンションを所持していることが中国人富裕層の間で一種のステータスとなっているらしく、今鶴見の前でご満悦なこの男もまさしく、観光のついでにマンションの一棟買いをしにやってきたそうだ。
観光のついでという発想は、元一般人の鶴見にはいささか理解できない感覚ではあったが、金が入りさえするのならばそれで構わない。
客の事情など、こちらの知ったことではないのだから。
とにもかくにもこの商談が成立すれば、組としては大きな資金源となる。
部下に任せても良かったのだが、億単位の金を万が一にも逃したとなれば、鶴見の面目丸潰れである。
そういうわけで、わざわざ鶴見自ら商談に臨みに来たのだが。
椅子から立ち上がり、男は握手を求め手を差し出してくる。
丁重に握り返してやれば、男はますます下卑た笑みを強めた。
『いやー、あんたのおかげで、今回はいい買い物ができたよ』
『いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました』
男がどんどん話に乗ってくるものだから、相場よりもかなりの高値で売りつけることが出来てしまった。
これだから、大陸の富裕層相手の商売はやめられない。
客も満足、鶴見も、組の懐も満足。
互いにWin-Winの、非常に合理的な関係だ。
男が部下に連れられ部屋を完全に出て行くのを確認してから、鶴見は軽く溜息を吐いた。
心なしかよれてしまったスーツの胸元を漁り、煙草を取り出す。咥えた煙草の先端から出た白煙が、ゆるやかに天井へと打ち上げられていった。
椅子に背を預け、それを呆然と眺めながら、鶴見は静かに息を吐き出していく。
思っていたより単純だったのは助かったが、些かストレスが溜まる客だった。
いかに自分が金持ちで優れた人間であるかを、ただ永遠と演説されたのはまあ許せる。いつものことだ。
そこまでは、「そうですね」の範疇で軽く済ませられる話だったのだが。
『あんたは出来る男のようだし、気に入った。うちの娘を嫁にやってもいい』と上から目線に言われた瞬間、仕事だというのに思わず笑顔の仮面が剥がれ落ちそうになってしまった。
(もしもあそこで、残念ながら私は、女子高生と結婚したいがためにその娘の親の会社に圧力をかけるような、どうしようもないストーカーの変態クソ男なんですよー、とでも言ってやったらどんな反応が返ってきたんだろうな)
まあ、仕事なのでそんな大人気ないことは言わないが。
煙草の火をテーブルに置かれていた灰皿でもみ消し、鶴見は再びスーツの胸元を漁る。
煙草が入っているのとは丁度反対側のポケットに、それはあった。
「…………はぁ」
取り出した依の写真をまじまじと凝視しながら、恋する乙女のような、気色の悪い溜息を吐く。
依からすれば鶴見は赤の他人なので、当然隠し撮りである。
肖像権もクソもあったものではない。
写真自体はなんてことはない、通学中に友人と歓談している笑顔の依を写しただけのものだ。
だがしかし、よく撮れている。依が微笑んでいる相手は自分ではなく横にいる友人であると理解してはいても、絶妙な角度で写されているせいで自分に向かって微笑まれているような錯覚さえ覚えてしまう。
数ある依の隠し撮り写真コレクションの中から厳選した至高の一品だけあって、正直見ているだけで鼻血ものだ。
実物には到底敵わないが、それでもかわいいものはかわいい。
理性のストッパーが完全に飛んでしまっている鶴見には、いささか刺激の強い代物だった。じっと見続けていると、「今日もお仕事頑張ってください」だなんて幻聴すら聞こえてくる。
本来ならここで依の声を聞いて一度落ち着きたいところだが、今日は生憎と仕事が詰まっているため、その余裕はない。
(……頑張るよ)
将来依と幸せな家庭を築くためにも、金はあるに越したことはない。
幻聴に返事をしてしまう自分はかなりの重症だな、だなんてことを考えながら、鶴見は椅子から立ち上がり、写真をスーツの内ポケットにしまい直した。
*****
全ての仕事を済ませ鶴見が帰宅した時には、時刻は夜中の二時を過ぎていた。
店の一つが上納金を絞るものだから、余計な手間を掛けることになってしまった。
苛立ちをぶつけるようにして乱雑にスーツの上着を椅子に掛け、早急にスマートフォンにイヤフォンのプラグを繋ぐ。
疲れた時は、依の声を聞くに限る。
無論、盗聴である。
当然家にも盗聴器を仕掛けているが、いつどこにいても依の発言を聞き逃さないように、依のスマートフォンにもこちらに音声を送信するウイルスを仕掛けてある。
補足しておくと、位置情報も取得しているので、依の行動パターンも一通り把握済みだ。どう考えても犯罪なのだが、鶴見の中には将来結婚するのだし別に問題ないという思考しかなかった。時、既に遅し。何もかもが完全に手遅れ状態だった。
ベッドに腰掛け、昨日の分の音声データをシークバーをいじりながら適当に聞き流していると、気になる話題が鶴見の耳を突いた。
「依ってさー、全然そういう話聞かないけど、好きな人とかいないの?」
ガタッと、依の友人と思しき少女の声に、思わず肩が揺れる。
居てたまるか。
「えぇ!? いないってば!」
「えー、ほんとかなー」
「本当に」
「じゃあさじゃあさ、好きなタイプは!?」
「タ、タイプ……?」
ごくりと、一人息を呑む。
それは、鶴見としては非常に気になる。
依の好きな異性のタイプが把握できれば、それだけアプローチがしやすくなる。
耳を澄ませていると、しばしの沈黙の後依が口を引く。
「真面目な人、かなぁ。……あ、煙草は吸わない人がいいかも」
(……たぶん、真面目だろう)
真面目にストーキング行為に勤しんでいる、という意味で。
とりあえず第一関門はクリアしたなと、一人自分を鼓舞してみる。
煙草は、早急に禁煙すればなんとかなるはずだ。たぶん。
「あとは、……浮気しないで、一途に私を好きでいてくれる人なら、いいかなー、なんて」
グァッ! と、比喩ではなくその場で立ち上がり、勢い良くガッツポーズする。
神様ありがとう。再会した時から薄々感じていたが、これはやはり、運命なのでは?
自分の認知していないところでストーカー男が妄想を爆発させているとはつゆ知らず、依は恥ずかしそうに言葉の先を紡いでいく。
「うちの両親、かなり仲が良かったの。子供の頃から、そんな二人をうらやましいって思ってたというか……。だから私も、そんな風になれたらなー、なんて」
今のは、反則だろう。再びゆっくりとベッドサイドに腰掛けながら、鶴見は溜息を吐く。あまりにかわいすぎる。正直、かなり股間にきた。端的に言うと、勃起した。
考えるより先に、指がシークバーを巻き戻していた。
先ほどの依の言葉を数度リピートし、聞き間違いではなかったのかと脳が認識した瞬間、再生を停止し、勢い良く鶴見は耳からイヤフォンを引き抜いた。
乱雑にスマートフォンをイヤフォンごとベッドの上に投げ捨て、ベッドサイドに置いてあった一枚の写真を手にする。ブレザーを纏い微笑む依の姿に、はぁはぁと息が上がった。これもまた、厳選された盗撮写真コレクションの一枚だ。
写真を持つのとは反対の腕で、性急にスラックスをくつろげていく。
欲を解消しようと掴んだ男根は、いつになく熱を帯び、硬度を増していた。
己の単純さに、知らず口元には苦笑いが浮かぶ。
鬱憤を晴らすようにして、鶴見は慣れた動作で写真の中の依を凝視したまま腕を上下に動かしていく。
頭の中には、着乱れた制服姿で壁に手をつき、鶴見に向かって甘やかな視線を向ける依の姿があった。スカートの隙間からは濡れそぼった秘所が覗き、挿入を強請るかのようになまめかしく腰が揺れ動いている。
「っ……ぐ」
現実にあるはずのない扇情的なシチュエーションに、鶴見は肉棒をしごく腕を早めていく。同時に、妄想の依の中に屹立が埋め込まれていく。
声にならない悲鳴を上げながら、依は痛いほどに鶴見を締め上げてくる。無垢な少女の皮を被っていながらも、それはさながら、男の性を貪ろうとする淫魔の如く。
「っ、ぁ、依……っ」
名前を呼んだところで、答えてくれるわけはない。
だってこれは、ただの妄想でしかない。
鶴見の、自分勝手な願望が見せただけの夢幻。
ガツガツと突き上げを強めるとともに、屹立への責めも激しさを増す。
亀頭から染み出した先走りを潤滑油代わりにし、痛いほどに張り詰めた肉棒全体に塗りこむようにして擦っていく。鳴り響く淫猥な音が実際の性行為の音のように錯覚を覚え始め、鶴見はますます興奮する。
「つ、るみさん……っ」
涙目で名を呼ぶ依の姿を想像した瞬間、この女を孕ませてやりたいという激しい衝動に駆られた。
強烈な射精感に、全身から嫌な汗が滲み出す。
低い唸り声が、漏れ出る。
「っ……は」
今すぐに依を攫って、閉じ込めて、ドロドロに犯し抜いてやりたい。
そんな物騒なことを考えながら、鶴見は限界を迎えた。
咄嗟にティッシュを手に取り、先端を抑えながら、残ったものを全て絞りだそうと丹念に竿をしごいていく。
行為が終われば、途端現実に意識が引き戻されていった。
気持ち悪いことをしているという自覚はあったが、そんな罪悪感で収まってくれるほど、鶴見の性欲は軟弱なものではなかった。
それに、こうして一人で吐き出しておかなければ、いつか歯止めが効かなくなりそうだった。『下準備』を終える前に依を襲ってしまっては、元も子もない。
依の望みを叶えるためにも、鶴見は依を幸せにしてやらねばならないのだから。
妄想で犯す分には、誰にも害は及んでいない。だったら別にいいではないかと、鶴見は虚無感に苛まれながら吐き出した白濁を拭き取ったティッシュを、投げやりにクズカゴに投げ入れた。
まあ、でもとりあえず。
「……煙草は、やめよう」
鶴見一明37歳独身、禁煙を決意する。
これはそんな、秋の一夜。
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今里「あれ!? 兄さん、タバコっスか!? 禁煙するんじゃ――」
鶴見「……ココアシガレット」
今里「ココアシガレット」
京極(大爆笑)